少子化や価値観の多様化により、大学の広報戦略は大きな転換期を迎えている。かつては奇抜なアイデアや大規模な広告で注目を集める手法も有効であったが、現代の受験生や保護者に想いを届けるには、より緻密な戦略が求められる。
今回は、芝浦工業大学 入試・広報部の土屋氏にお話を伺った。
同大学では近年、「入試広報(短期的な学生募集)」と「法人広報(長期的なブランディング)」を統合し、「女子学生比率30%」「地方からの入学者比率向上」という明確なKPIを掲げ、データに基づいた戦略的な広報活動を展開している。
なぜ彼らは部門を統合したのか。明確なKPIはどのように設定され、どのような施策に繋がっているのか。そして、OOH広告をはじめとする各種メディアとどう向き合っているのか。大学広報の「今」と「未来」が詰まったお話を、詳しく伺った。

芝浦工業大学 入試・広報部土屋 公平 氏
ふとした気づきから始まった。入試と広報の統合が生んだシナジー
―土屋様のこれまでのご経歴や、現在の部署の体制について教えていただけますか?
実は私、新卒からずっとこの大学の職員でして、今年で26年目になります。そのうち広報に携わっているのが18年ほどで、キャリアのほとんどが広報ですね。現在は入試・広報部の次長を務めています。
実はこの体制になったのは昨年からでして。もともと大学の広報は、短期的に高校生へアプローチする「入試広報」と、長期的なブランディングを担う「法人広報」に分かれていることが多いんです。本学も以前はそうでした。
―それが統合されたのですね。何かきっかけがあったのでしょうか?
近年、推薦や総合型選抜といった年内入試が本格化し、入試課の職員が春からずっと入試準備に取り掛かる必要が出てきました。昔は2月の一般入試が中心だったので、夏などは地方へプロモーションに行く余裕があったのですが、今はもうそのリソースがなく、プロモーションが後回しになりがちでした。
一方で、法人広報を担っていた企画広報課は、SNS運用の知見などを蓄積していました。そこで「じゃあ、一緒にしたほうが効率的ではないか」と。コンテンツも共有できますし、短期的なプロモーションと長期的なブランディングは互いに寄与する部分が大きいので、1年前に部門を統合し、広報活動を一本化したという経緯です。
―非常に合理的な判断ですね。これまでの広報戦略の歴史についてもお伺いしたいです。
振り返ると、大学のポジションに応じて戦略は大きく変わってきましたね。2000年代前半は、まだ大学のポジションも高くなく、ベンチャー気質で「面白いことやって振り向いてもらおうぜ」というマインドでした。表現も過激なものを使ったり、山手線ジャックのような大規模なOOH広告を実施したこともあります。
ただ、大学のポジションが上がるにつれて、伝統や重みを重視する「どっしりとした」ブランディングに方針が転換した時期がありました。
そして今、再び表現やメディアの使い方が柔軟になってきています。OOHは大学の最寄り駅での掲出が中心ですが、SNSも積極的に活用しています。
「女子学生比率30%」「地方学生獲得」明確なKPIが、施策の精度を高める
―現在の広報活動における、ミッションやKPIについて教えてください。
現在の広報における明確な2大ミッションは「女子学生比率を30%に引き上げること」と「地方からの入学者比率を上げること」です。
―まず「女子学生比率30%」について、背景や具体的な施策をお聞かせください。
今、国が理工系に進む女性の増加に向けた取り組みを進めており、また、企業も女性エンジニアを強く求めていて、社会的に非常に強い追い風が吹いています。実際、本学の女子学生の就職率はここ数年100%です。この流れを捉え、大学としての社会的ミッションを果たすべく、高い目標を掲げています。
施策としては、女子高生向けサイトの開設やイベントの実施、奨学金の設立など多岐にわたります。その中でも最も効果的だったと感じているのは「女子枠入試」ですね。
2018年から、他の大学に先駆けて導入しています。これがあることで、大学として「理工系の女子が社会に必要だ」という姿勢が明確に伝わります。「男子への逆差別だ」という意見もありますが、私たちはこれを「あまりに男女差がある業界を正常な状態にするための一過性のアクション」と位置づけています。
もし、この入試制度がなくても女子学生が恒常的に集まる世の中になれば、すぐにでも廃止するつもりです。他大学が女子枠入試を始める中で、枠を設けなくても普通に女子が集まるから女子枠入試はもうやめます、と早く言いたいですね。
こうした取り組みの結果、昨年度の入学者ベースで女子学生比率は27.8%まで到達し、「今年にも30%を達成したい」という気持ちで取り組んでいます。
―もう一つのミッション「地方学生の獲得」についてはいかがでしょう。
こちらはなかなか難しいところです。現状、学生の8割が首都圏出身で、これは都内の有名大学でさえ「関東ローカル化」が進んでいると言われるほど、多くの大学が抱える課題です。
背景には、地元志向の高まりや、東京での生活にかかる経済的な負担、そしてインターネットの普及で昔ほど「東京への憧れ」がなくなってきていることなどが挙げられます。
―地方の学生さんにアプローチするために、どのような施策を?
いくつかある施策の一つとして挙げられるのが、ダイレクトメール(DM)です。「芝浦工大は志望校に入れていないが、競合の理工系大学は志望している生徒」や、「国立大学が第一志望だが、併願校を迷っている生徒」といった学生にアプローチができれば、広くばらまくよりも、効率が良いものになります。高校生の状況や思考に合わせて、最適なタイミングでDMを打ち込んでいくことが手法としてあげられます。
インサイトの鍵は「就職率」と「親」。メディアの特性を見極めたクリエイティブ戦略
―学生や保護者は、何を決め手に大学を選んでいるのでしょうか。何かデータはありますか?
今年の1年生全員にアンケートを取りました。非常に興味深い結果が出ています。大学選びの決め手を一つだけ挙げてもらうと、1位は「就職率の良さ」でした。特に男子学生でこの傾向が顕著です。ちなみに女子学生の決め手1位は「学びたい分野がある」で、明確な目的意識が感じられますね。
―就職率はやはり皆さん気にされるのですね。
本学は「有名400社実就職率」で国内の私立大学の中でもトップクラスという実績があり、それが大きな強みになっています。この事実は、学生たちがWebサイト等で事前に知ってくれているようです。
―最近はTikTokなども話題になっていますが、いかがでしょう?
意外にもTikTokを大学選びに活用しているという人は非常に少なかったです。これはTikTokの性質上、大学を知ることにはなるかもしれませんが、決め手にはならないのと、高2の終わりから高3にかけて、受験勉強のために「TikTok断ち」をする生徒が多い、という2つの理由が考えられます。
そして、高校や塾の先生よりも影響力が強かったのが、「親」です。受験生はもちろんのこと、保護者へのアプローチが非常に重要だと考えています。
―一方で、国際女性デーなどに認知広告を出されていますよね。こちらはどのような狙いがあるのでしょうか?
3月8日の国際女性デーに新聞広告を掲載しています。これは短期的な集客が目的ではありません。先ほどの女子枠入試の話とも繋がりますが、我々の「女子学生を社会に送り出す」という大学としての姿勢を社会に発信するブランディングのためです。我々の考え方を社会に伝えるタイミングとして最適だと考えています。

画像:国際女性デーに掲出された紙面広告
―短期的な学生獲得にはデータに基づくDMでアプローチし、新聞広告のようなマス媒体は大学の姿勢を示すブランディングの機会と位置づけるなど、メディアの特性に応じて目的を明確に使い分けられているのが非常に印象的です。
そうですね。「誰に、何を伝え、どうなってほしいのか」、その目的を突き詰めることが重要だと考えています。
冒頭でもお話しした通り、一昔前は一風変わったコピーや大規模OOHなどを活用した認知広告によって、社会的な認知を上げていくことにフォーカスしていました。
そこも押さえつつ現在は、目的に沿ったメディアの利用によって、ブランディングと短期集客の両面をおさえることで、大学としての目標達成に向けて動いています。

画像:田町駅に掲出された駅看板
―OOHやマス広告は短期的な効果測定が難しい側面もありますが、大学の「思想」や「姿勢」を社会に伝え、共感を呼ぶというブランディングにおいては、非常に有効な手段だということですね。
正直、長年のところ「芝浦工業大学といえばコレ」と言える強みがなく、ブランディングに悩んでいました。しかし近年は当校の姿勢が世の中に徐々に浸透しつつあり、結果として「女子学生比率の高さ」と「就職率の良さ」が明確な強みとして確立しつつあります。
最近ですと、新しく「課程制」を導入しました。この「課程制」は主コースの学びに主軸を置きつつも、自らの興味に合わせて他分野の知識も体系的に学べるという制度なのですが、首都圏の大学では初の試みで、本学の「まずやってみる(ファーストペンギン)」という先進的な気質を象徴しています。学部改編のような大きなトピックスを広告施策に用いる際には、コンセプトを明確にしたクリエイティブで、その姿勢を伝えていくことを意識していますね。
短期的な成果を追いかける施策と、我々の姿勢を社会に伝えていくような長期的なブランディング、その両方の視点を持つことが大切です。特にOOHのような広告は、後者の役割を担う上で非常にパワフルなメディアになり得ると考えています。まずは目的を定めることが重要であると考えています。
国内最大級の屋外広告プラットフォーム


