少子化と大学間競争の激化――。学生募集を取り巻く環境が厳しさを増す中、多くの大学がWeb広告やSNS運用の最適化に注力している。しかし、デジタル施策のCPA(顧客獲得単価)を突き詰めた先には、本当に事業の成長があるのだろうか。
その厳しい環境下で、独自の存在価値を追求し続けるのが高千穂大学だ。大規模大学やスポーツ強豪校とは一線を画し、学生一人ひとりと向き合う「こころが通う」教育を強みとしてきた。しかし、その魅力も、まず大学名を知ってもらえなければ伝わらない。デジタルマーケティングを駆使する中で、同大学は「認知の壁」という大きな課題に直面していた。
その突破口として同大学が選んだのが、LINE広告と位置情報を掛け合わせ、高校生へ直接アプローチするというデジタル施策だ。
なぜ同大学は、従来のWeb広告の最適化ではなく、この一手を選んだのか。その決断の背景にある緻密な戦略と、この施策が持つ真の意義に迫る。

学校法人 高千穂学園 高千穂大学 入試広報部 広報課 課長(当時) 総務部 IR室課長(現在)坂田 利康 氏
25年の知見が生む、リアルとデジタルの統合的視点
ー 坂田様のこれまでのキャリアと、現在のミッションについてお聞かせください。
私はこれまで教育業界に25年間従事していて、一貫して学生募集に関わるマーケティングや広報を担当してきました。今年の4月からは総務部で、学生の入学から卒業までを管理する「エンロールメント・マネジメント」という領域の中のIR(Institutional Research)の業務に従事しています。 キャリアを通じて、Web広告の運用からイベント集客、さらには広告の受け皿となるホームページのタグ設置やGA(Google Analytics)を使った行動分析まで、リアルとデジタルの両面で、いわば川上から川下まで全てを担当してきました。広告を届けて終わりではなく、その先のユーザーの行動までを一気通貫で見てきた経験が、現在のマーケティング戦略を考える上での土台になっていますね。
ー現在の学生募集におけるミッションや目標について、詳しくお聞かせいただけますか。
この20年で大学数が増え、一方、18歳人口が減少していく中で、大学間の競争は非常に激しくなっています。その中で、最終的なKGI(重要目標達成指標)である「入学者数」を達成することが我々のミッションです。これは単に学生を増やすということではなく、その先にある「社会で活躍できる人材の輩出」という大学の社会的役割を果たすための重要な基盤となります。 そのために、SNSでのエンゲージメントやイベント参加、資料請求といった各KPI(重要業績評価指標)を一つひとつ着実にクリアしていくことを目指しています。
ーそのKPIは、どのように設計されているのでしょうか?
主に、これまでの実績値から逆算して組み立てています。 例えば、目標とする入学者数を確保するためには、年間の資料請求やオープンキャンパスの来場者は何人必要か、といった具合です。 資料請求からイベント参加、出願といった各ファネルの転換率も過去のデータから分かっているので、そこから逆算して各KPIを設定していく形ですね。
画像:創立122年を迎えた高千穂大学
統合的アプローチと理論に裏打ちされた、一貫したマーケティング哲学
ー 25年のご経験の中で、どのような思想を持ってマーケティングに取り組んでこられたのでしょうか。
常に意識してきたのは、戦略的な一貫性を持つ「IMC(統合型マーケティングコミュニケーション)」です。例えばオープンキャンパスの告知をする際、Webサイト、SNS、紙媒体でバラバラの写真やコピーを使うのではなく、まず核となるキーコンテンツを一つ作り、全ての媒体で統一して展開します。そうすることで、情報が分散せず、各施策が連動して相乗効果を生み出すことを目指しています。また、受験生の心理状態に合わせたアプローチも重要です。マーケティングの「制御焦点理論」を応用し、受験までの距離が遠い高校1、2年生には「大学で何を学べるか」といった抽象的で夢のある情報を、受験が目前に迫った3年生には「オープンキャンパスで聞ける話」や「面接で何を聞かれるか」といった、より具体的で実用的な情報を届けるなど、同じ内容でも見せ方や表現を学年ごとに最適化していました。
ー コンセプト作りにおいても、非常に戦略的ですね。
コンセプトは、私たちの独りよがりでは意味がありません。以前、本学では「先生と近い」というメッセージを掲げていましたが、これは小規模な大学ではどこでも言えることで、差別化になっていませんでした。そこで、教職員へのアンケートで『面倒見の良さ』というキーワードが多数挙がったことをヒントに、調査を経て「こころが通う」という、より本学らしさが伝わるコンセプトを開発しました。実際に高校生にアンケートを取り、大学案内(パンフレット)に掲載する写真について「学生が映っていない写真は寂しい」という声があれば必ず集合写真を入れたり、常に受け手である学生の視点を大切にしてきました。
画像:高千穂大学PV動画より引用
緻密なデジタル戦略の先に見えた「分母の限界」という壁
ー これまで感じていた課題について教えてください。
高校生を取り巻く外部環境はこの20年で大きく変化していて、その影響を感じています。高校生が利用するメディアが分化していくなかで、複数のSNS広告やジオターゲティングに取り組んできた結果、予算が肥大化してしまったため、選択と集中の必要性がありました。また、クッキーの規制強化により、以前よりも受験生に情報を届けるのが難しくなったことや、高校生の不登校や中途退学者の増加による影響も、これまでとは異なる戦略が大学には求められてきていると感じています。
本学を併願先として検討している受験生に対しては、リスティング広告では競合校の名前で検索したユーザーからの流入が非常に多いという特徴があります。 そこで、新宿や池袋での大規模な学外ガイダンスの会場や、入学者アンケートで判明した競合校のオープンキャンパス開催日に、その場所にいる高校生へピンポイントで広告を配信する、といった施策を行っていました。進学に前向きな高校生が集まる場所に直接アプローチできるため、エンゲージメント率は非常に高く、効果を実感していました。
ー 非常に効率的な施策に聞こえますが、それでも課題があったのでしょうか?
最大の課題は「アプローチできる母数の限界」です。ターゲットをピンポイントに絞る刈り取り型広告の施策は効率がいい一方、アプローチできる絶対数が減ってしまう。仮に1,000人規模のイベントをターゲットした場合、リーチできるのは最大で1,000人です。その中でエンゲージメント率を高めることはできても、そこから爆発的に認知を広げ、大学の未来を支える新たな志願者層を開拓するのは難しい。Webマーケティングを突き詰めていくと、この「分母が小さい」という壁に突き当たります。この壁を越え、事業を継続して成長させるためには、まだ具体的に進路を考えていない高校1、2年生といった広大な「潜在層」に、いかにブランドを刷り込んでいけるかが不可欠だと考えていました。
「壁」を越えるための新たな一手。「LINE×位置情報」による高校へのダイレクトリーチ
ー 最終的にLINE広告を採用した決め手は何だったのでしょうか?
LINEはターゲットである受験生(高校生)が最も利用しているソーシャルメディアであることです。また、受験生の3年生だけではなく、高校をターゲットに設定できるので、今後のターゲット予備軍である高校1年生や2年生にもリーチができる点も魅力です。情報に接触することで行動変容を促す単純接触効果、加えて二次的効果としての広告の蓄積効果にも期待しています。
これまでに、人流データを活用したブラウザのネットワーク広告を利用した同様の提案は他社からもありました。しかし、高校生が日常的に最も利用するLINEというプラットフォームと、「ジオターゲティング」を直接組み合わせた提案は、御社だけでした。これまでSNS広告とジオターゲティングは、それぞれ別々に実施して効果があることは実証済みでした。その2つが掛け合わされれば、より効率的に、そして効果的にターゲットへ情報を届けられるだろうと確信しました。
ー 競合校のオープンキャンパスや学外ガイダンスなどの「イベント会場」から、ターゲットを「高校」そのものへシフトした狙いは何だったのでしょうか?
「潜在層へのアプローチ」を最大化するためです。高校に直接アプローチすることで、
大きく3つの効果を期待しました。
1つ目は、前述の通り、高校1、2年生への早期接触です。 受験を意識する前の段階で大学名に繰り返し触れてもらうことで、単純接触効果により、3年生になった時の第一想起に繋げられます。
2つ目が、高校の先生方へのアプローチです。特に異動が少ない私立高校の先生方に大学を
認知していただくことは、非常に重要な意味を持ちます。広告は、生徒だけでなく、
毎日そこにいる先生方の目にも触れますから。
最後に3つ目が、資産として蓄積されるブランディングです。イベント会場での一過性の接触ではなく、日常空間である高校で継続的に接触することで、より深く、長期的なブランドイメージを構築できると考えました。
データが示す確かな手応え。
ー 最後に、今回の施策の具体的な成果について、現時点で分かっていることがあれば教えていただけますか?
施策はまだ進行中ですが、すでに非常に良い結果が出ています。まず、先日いただいた中間報告によるとインプレッションは計画通りに推移しています。さらに特筆すべきは、ジオターゲティングと掛け合わせたLINE広告が、従来より実施しているX広告を5倍以上も上回る高い数値を記録したことです。それに伴い、ホームページへのセッション数(訪問数)も目標件数を超えています。
特に手応えを感じているのが、ターゲットとして設定した高校からの資料請求です。高校別にデータを分析したところ、広告を配信した高校のうち数校で、前年比2桁以上の資料請求件数の明確な伸びが確認できました。 狙っていた潜在層へアプローチでき、それが具体的なアクションに繋がっていることがデータで証明された形です。この後の最終的な結果も非常に楽しみにしています。
左から、オーマッチ株式会社 鈴木、高千穂大学 入試広報課長 髙松氏、高千穂大学 当時広報課長→現総務部IR室課長 坂田氏、高千穂大学 入試広報部長 渡邉氏、オーマッチ株式会社 杉山
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